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2016年9月29日木曜日

日立の業績とコーポレートガバナンスの関係

 内部監査推進全国大会(第50回の記念大会)で日立の川村隆相談役のお話を聞きました。川村氏は、2009年3月期に製造業で過去最大であった7873億円の最終赤字に陥った日立をV字回復させた社長(2009-2010)・会長(2010-2013)です。
 お話のテーマは内部監査でしたが、その中で委員会等設置会社にしたことと企業業績との関係が興味深かったのでご報告します。
 日立は2003年4月に施行された会社法(当時は商法特例法)により、委員会等設置会社(以下「指名委員会等設置会社」)に任意で移行できるようになった時に、いち早く移行したのが日立でした。
 その後、日立は上場しているグループ会社でも指名委員会等設置会社を採用しました。ある年、上場会社の中で指名委員会等設置会社の数が減少しました。それは、日立グループのリストラでこれらの会社を統合したためでした。日立は今でも日立製作所を含め8社の上場グループ会社が指名委員会等設置会社になっています。
 川村氏によれば、欧米型の指名委員会等設置会社は「明確で良い」、「(本質的な理由ではないが)海外の投資家に説明しやすい」ので採用したということでした。ソニー、東芝などの他の電気会社が業界を率先して指名委員会等設置会社に移行することになったのも要因と考えられます。
 ただ、2003年に指名委員会等設置会社に移行した後は、業績が低迷し、上記のとおり、2009年3月期には「今後も他社に抜かれることがない」(川村氏)というほどの赤字決算に転落しました。これは、言うまでもなくリーマンショックの影響でしたが、その素地が過去から蓄積されてきたためであることは間違いありません。
 コーポレートガバナンスを指名委員会等設置に変更したら業績低迷した、という点ではソニーも同様であったということが言えます。(東芝の場合は業績悪化が顕著にでませんでしたが、実はそれは粉飾決算が原因だったのはご存知のとおりです)。日本では、名委員会等設置会社は業績には悪影響を与えるのではないか、という「思い込み」が日本で形成されたのはこのためと考えられます。指名委員会等設置会社が増えなかったのは、これが大きな原因と筆者は思っています。
 しかし、川村氏によると、日立は2003年に指名委員会等設置会社に移行したが、社外取締役には知り合いの人などにお願いしたことから、取締役会で厳しい意見が出なかったとのことでした。
 日立の場合、2009年のどん底の時点ではなく、そこからV字回復した後の2012年に外人を社外取締役に入れたそうです。川村氏によると、これはV字回復すると気がゆるむので、それを防ぐのが目的だったとのことです。そのあと、日立は2014年3月期と2015年3月期に連続で過去最高益を更新したのです。
 社外取締役には外人の次に女性を入れたそうです。外人取締役は、たとえば「V字回復したとしても、利益率6%では低すぎる」といった率直な意見を出したそうです。これまでの日本人の社外取締役は、遠慮があることからほとんど発言しなかったのですが、外人はお構いなしに厳しい発言をしたそうです。それにひきづられて、日本人の取締役の発言も増えてきたそうです。
 まさに、これがコーポレート・ガバナンスコードが求めている「攻めのガバナンス」と言えます。筆者は、ガバナンスのサクセスストーリーを聞かされた気持ちになりました。
 日立のこの事例から、ガバナンスは「形」ではなく、その「運用」であることがよく分かります。別稿で筆者がガバナンスと企業業績について疑問があることを記述したのは、企業業績と社外取締役導入という「形」だけを分析の対象としたからではないかと思います。
 形は外から見えますが、運用までは見えません。ただ、取締役会が多様化(diversify)しているということは、外からも見えます。外人や女性を社外取締役に入れなければならないということではありませんが、そうゆう会社の業績にプラスの影響を与えてるのであれば、データからガバナンスと企業業績が証明できるでしょう。取締役会での社外取締役の発言件数が開示されれば、それも運用状況の指標になると思いますが、これを実現するのは簡単ではないかもしれません。
 開示された情報から、コーポレートガバナンスと企業業績の関係を分析するのにはまだまだ工夫が必要です。

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