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2018年11月24日土曜日

日産自動車の役員報酬はどのように開示されているのか、何が問題か?


有報の記載内容を見て、日産自動車の役員報酬がどのように開示されており、何が問題だったのかを検討してみましょう。

1 有報の開示内容

20183月期の有報を見ると、役員報酬の記載は次のようになっています。
l  確定額金銭報酬と株価連動型インセンティブ受領権から構成している
l  確定額金銭報酬は年額299,000万円以内(平成20年6月25日開催の第109回定時株主総会の決議)
l  株価連動型インセンティブ受領権の年間付与総数の上限を当社普通株式600万株相当数としている(平成25年6月25日開催の第114回定時株主総会の決議)

<役員区分ごとの報酬等の総額等>
(単位:百万円)

 <役員ごとの連結報酬等の総額等 但し、連結報酬等の総額1億円以上である者>
(単位:百万円)




2 カルロス・ゴーン氏とグレッグ・ケリー氏の報酬

まず、ケリー氏は取締役ですが1億円以上のリストには含まれていませんので、1億円未満であったということになります。この点は、今後明らかになると思います。

報道によるとゴーン氏には、株価連動型インセンティブ受領権が与えられていたにも関わらず、これが開示されていなかったということです。これが5年間で40億円あったということですので、平均すると年8月分億円になります。

このほかに、「海外子会社から受け取った年1億~15千万円程度の報酬も不記載」と報道されています。報酬過少記載の5年間合計は50億円と報道されています。このため海外子会社からの報酬は5年で10億円となります。

この海外子会社からの報酬は、報道されているような海外住居の賃料相当額や個人的な経費を会社に負担させたもの(現物報酬)なのか、金銭報酬なのかは今後明らかになると思います。

3 金銭報酬を記載すればよいのか

有報の役員報酬の開示については、その記載要領(開示府令第三号様式記載上の注意(37))に「報酬等(報酬、賞与その他その職務執行の対価としてその会社から受ける財産上の利益であって、最近事業年度に係るもの及び最近事業年度において受け、又は受ける見込みの額が明らかとな ったもの」と記載されています。

上表のとおり、日産自動車は「金銭報酬」を記載しています。金銭報酬を記載しなさいとはどこにも書かれていません。金銭報酬というのは、現物報酬を除くという意味ではないかと思います。

ゴーン氏への個人的な経費の負担を会社が行ったというのは、現物報酬に該当します。それは含まれないということが言いたかったのかもしれません。しかし、ここには現物報酬を含む「職務執行の対価としてその会社から受ける財産上の利益」を記載することになっています。なお、後述の株主総会決議における役員報酬上限額にも現物報酬が含まれます。

4 報酬の上限を超えているか

株主総会で承認されたのは、「年額299,000万円以内」です。有報に開示されている役員報酬は上記のとおり、合計で18.57億円です。それに不記載の10億円(年平均額)を加算すると28.57億円になります。これは報酬の限度内に収まります。ゴーン氏らは、株主総会で承認された役員報酬の上限を超えないように気を付けていたのかもしれません。

「株価連動型インセンティブ受領権」の方はどうでしょうか。ゴーン氏への年平均額8億円と開示されている9千万円の合計8.9億円がこの事業年度に支払われています。この年間上限は600万株の株価相当額です。日産の過去5年間の株価を見ると1,000円(100株)を大体超えています。

仮に株価1000円で計算すると6千万円(6,000千株÷100株×1000円)になります。前述の株主総会決議は、役員(取締役と監査役)全員の年間合計額ですが、これは恐らく1人分だと考えられます(1人分か全員分かの記載はありませんが、合計9千万円と開示されていますので全員分ではないと考えられます)。

ゴーン氏への株価連動型インセンティブ受領権は、年間平均8億円ですので、6千万円を軽く超えています。

結論としては、株主総会の役員報酬限度額は超えていませんが、株価連動型インセンティブ受領権の限度額は超えています。株価連動型インセンティブ受領権の限度額は、「平成25年6月25日開催の第114回定時株主総会の決議」としていますので、これに違反したということになるでしょう。

なお、ゴーン氏の株価連動型インセンティブ受領権の不記載に気づいた日産関係者が記載すべきだと指摘したこともありましたが、ゴーン氏やケリー氏らは必要ないと拒否していたとされています。

5 損益計算書への記載と会計監査の妥当性

監査法人による財務諸表監査(会計監査)の対象は、有報の中の「経理の状況」に記載された(連結)財務諸表です。有報の役員報酬の記載は、監査法人の監査対象にはなりません。

しかし損益計算書に役員報酬が別掲されていたら、それが間違いということになります。その点はどうでしょうか。連結損益計算書には「給与及び手当」が別掲されていますが、普通これには役員報酬は含まれません。役員報酬は「その他」として他の販管費及び一般管理費と合計で記載されていると考えられます。

このため、役員報酬が別の経費として計上されていたとしても、監査の問題になることはありません。

報道されているように、海外子会社から何等かの資産がゴーン氏のために購入されていたとしたらどうでしょうか。また、ゴーン氏の私的な経費を会社が負担したということであれば、会社の経費ではなく、ゴーン氏への債権(貸付金)とも考えられます。

ということになれば、販管費及び一般管理費の「その他」に計上されている費用の一部を債権に計上し、その分当期純利益が増えることになります。すなわち、(連結)財務諸表がその分間違っていたということになります。(利益が増えれば税金も増えます)

こうなれば、(連結)財務諸表が適正でなかったのではないか、ということになります。しかし、それがもし50億円(税引き後で35億円)であれば、日産自動車の企業規模から考えて、監査法人の監査に問題があった、ということにはならないと思います。

この日産自動車の問題は、有報の虚偽記載とされていますが、(連結)財務諸表に大きな影響を与えるものではないという点で、過去に起こった西武鉄道による大株主についての虚偽記載に類似しています。この点は、稿を改めて検討したいと思います。

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