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2018年11月25日日曜日

日産自動車の役員報酬は取締役会で承認されていたのか


1 日産自動車の株価連動型インセンティブ受領権とは

株価連動型インセンティブ受領権を含め、役員報酬はその上限が株主総会で承認され、各人別の報酬額は取締役会に一任するのが普通です。日産もそのようになっています。株価連動型インセンティブ受領権の付与については、その権利行使可能期間や行使条件は、取締役会が定めることになっています(平成25年6月25日開催の第114回定時株主総会の決議)

株価連動型インセンティブ受領権は、取締役会が定める株価を超えた場合、その株価上昇額が報酬として計上されるものです。要するに、取締役ががんばった結果、株価が上がったのであれば、その上がった分だけを報酬として支払うということです。

この報酬は、すぐに支払われるのではなく、「各権利付与日から10 年を経過する日までの範囲内で、取締役会が定める」となっています。報酬をもらう権利があるだけで、支払は留保されていると考えられます。

2 役員報酬の虚偽記載は何を意味するか

有価証券報告書の役員報酬に未記載の役員報酬があったのであれば、取締役会での決議と有価証券報告書の記載が異なるということでしょうか。

すなわち、ゴーン氏に対する株価連動型インセンティブ受領権が未記載とされていますので、それは取締役会で決議された役員報酬が記載されなかったということになります。

取締役会で決議したのにも関わらず、意図的にそれを有価証券報告書に記載しなかったのであれば、虚偽記載になります。そうなれば、取締役全員と取締役会に出席しているはずの監査役の責任も重大です。

反対に、取締役会でゴーン氏への株価連動型インセンティブ受領権が承認されていないのであれば、そもそもそれは役員報酬ではないので、有価証券報告書への記載も不要です。当然、この点に関して虚偽記載はありません。

この報酬をもらう権利が取締役会で承認されているかどうかが、この事件の場合、重要なポイントになります。当局の逮捕容疑が有価証券報告書虚偽記載ですので、今のところ、取締役会で承認された役員報酬の一部が記載されなかったという理解をするしかありません。

そうなると、前述のとおり、各年度8億円程度のゴーン氏への株価連動型インセンティブ受領権を承認した取締役とその取締役会に出席した監査役は、5年以上前から有価証券報告書虚偽記載を知っていたということになります。これは「内部通報で発覚した」とする会社の説明と矛盾します。

3 本当は何が問題なのか

ゴーン氏が私的な経費を会社に支払わせたということは、どうも事実のようです。これはゴーン氏が社内規程に違反して会社に支払わせたのですから、会社がゴーン氏に損害賠償請求をすればよいことです。

会計上は、会社が負担した経費を「ゴーン氏に対する債権」に計上することになります。

一方、ゴーン氏のこのような行為は、社内規程に違反するだけでなく、会社法の特別背任罪や刑法の業務上横領罪になる可能性があると思います。ゴーン氏の逮捕は、やはりこれが狙いなのではないでしょうか。

なお、この会社が負担したゴーン氏の私的な経費を、それを負担すべきであると会社が認めるのであれば、現物役員報酬と考えることもできます。しかし、今回の事件ではこのような展開にはならないと思います。


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