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2015年7月28日火曜日

東芝の教訓(3)ーJ-SOXをゼロから見直せ

東芝の不正会計事件は、内部統制報告制度(J-SOX)が機能しなかった事例である。筆者は、別稿の『書かれてしまった「J-SOXの存在意義」』に次のように書いた。

「開示すべき重要な不備(重要な欠陥)」は、「財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備」と定義されている。制度の基本となる内部統制基準では「重要な影響」は比較的はっきり定義されているが、「可能性が高い」が明瞭でない。現状の実務では財務諸表に重要な影響を与える会計処理の誤りが発見された場合にのみ、「可能性が高い」としている。要するに顕在化した重要な不備だけが対象になっている。


「顕在化した不備」だけを報告の対象としているのであるから、東芝の場合には(これまでの会計不正(過年度訂正)事件と同じように)、過去の財務諸表が訂正されると同時に、内部統制報告書と内部統制監査報告書が訂正され、そこで初めて、内部統制に関して「開示すべき重要な不備」(重要な欠陥)が開示されることになる。

これでは、「J-SOXの存在意義がない」と言われても反論ができない。J-SOXは本来、早期警告システムでなればならない。実際に重要な会計処理の誤りは顕在化していないが、将来その「可能性が高い」場合に、「開示すべき重要な不備」を経営者自らが開示するというのが制度の趣旨である。「可能性が高い」というのは投資家に対する「リスク情報」である。

J-SOXの存在意義が問われるようになってしまっているのは、何が問題か? 実務における「可能性が高い」の定義が明確でないまま内部統制基準を放置していることが、諸悪の根源と言える。この点は、制度設計の段階から筆者が主張していたことであったが、筆者の言うことが理解できないのか、理解したくないのか、結局、基準や実施基準には反映されていない。会計士協会の実務指針においても、この点は触れられていない。

J-SOXにおける内部統制には、コーポレートガバナンスを含む全社的な内部統制と業務プロセスに係る内部統制がある。東芝の場合、明らかに全社的な内部統制に大きな問題があった。歴代社長3名が辞任したのは、自らが全社的な内部統制を無視(override)し、その事実を認めたからであろう。全社的な内部統制の一つである内部監査も機能しなかった。

第三者委員会報告書の再発防止策に書かれているコーポレートガバナンスの強化や内部監査の強化は、J-SOX用語では、全社的な内部統制の強化に他ならない。

東芝の場合は、言うまでもなく、会計マニュアルやそれへの準拠性のチェックなどの業務プロセスに係る内部統制も不備であった。

上場企業は、東芝事件を教訓にして、J-SOXの体制をゼロから見直してほしい。

ほとんどの上場企業は、J-SOX導入前に比較的多額の予算を割り当てていた。しかし、一旦制度が導入されると、その後急にJ-SOX対応人員数や対応時間を減らすような会社が続出した。「あんな金のかかる制度を誰が入れたのか?」「J-SOXは何の意味もない。無駄金を使った。」と公言する社長もいたと聞く。

制度を作った金融庁としては、ソフトランディングを求めすぎたきらいがあり、経団連などの産業界との調整のために奔走した結果、内部統制基準に曖昧な記述が散見されることになったと考えられる。上述の「可能性が高い」は、その典型例である。

上場企業では、J-SOX導入当初のこのような状況を知っている人も少なくなったのではないか。ここで、J-SOXの基本に立ち返って、内部統制基準の文字ヅラを追うだけでなく、本来の意味をしっかり理解した上で、自社のJ-SOX体制をゼロから見直してほしい。また、これを喚起するため、金融庁は内部統制基準の見直しを行う必要がある。







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