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2014年9月20日土曜日

わが国の内部統制報告制度の特徴

(内部統制報告実務詳解(商事法務2009年4月) 第1章 内部統制報告制度の意義 5.わが国の内部統制報告制度の特徴)

2004年から内部統制制度が導入されている米国においては、財務報告に係る内部統制の強化により、財務報告の信頼性を高めるという法の趣旨は達成されていると考えられる。しかし米国においては、制度対応のための負担が重いとの声が大きい。また、前述のとおり産業界による反対の声を反映して中小上場会社への適用時期が数回に渡って延期されており、本書執筆時点においては中小上場会社に対しては制度の導入が完了していない。

わが国の内部統制報告制度では、上記のような米国における状況を受けて、その導入に対する障害をできる限り排除するための配慮がなされた。

内部統制基準及び内部統制実施基準の「設定について」とする前文(以下「前文」)においては、「評価・監査に係るコスト負担が過大なものとならないよう、先行して制度が導入された米国における運用の状況等も検証し、具体的に以下の方策を講ずることとした」とし、以下の6項目を掲げている。

l  トップダウン型のリスク・アプローチの活用
l  内部統制の不備の区分
l  ダイレクト・レポーティングの不採用
l  内部統制監査と財務諸表監査の一体的実施
l  内部統制監査報告書と財務諸表監査報告書の一体的作成
l  監査人と監査役・内部監査人との連携

5-1. トップダウン型のリスク・アプローチの活用
資本市場の公平な運営のためには、投資家の判断の基礎となる財務報告の適正性を確保し、その虚偽記載を防止しなければならない。有効な内部統制はそのために役立つ仕組みである。しかし、適正な財務報告の確保が制度の本来的な目的であり、内部統制の有効性はその副次的な目的と考えるべきである。よって、財務報告において虚偽記載が発生するリスクが高い分野に焦点を絞ることにより、効率的な内部統制評価が実施できる。言い換えると、結果として財務報告において重大な虚偽記載が生じることがない分野における内部統制の評価に時間を割くことは効率性を阻害することになるため、それを避ける必要がある。

このため、内部統制の細部からその有効性の評価を積み上げるのではなく、制度の本来の目的となる財務報告の適正性の確保という観点から、虚偽記載リスクの高い分野に重点を置いた内部統制の評価を実施するという考え方が、トップダウン型のリスク・アプローチである。

内部統制が有効であるとは、内部統制の重要な欠陥がないということを意味し、重要な欠陥とは「財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備」である。すなわち、内部統制が有効であることは、内部統制の不備はあったとしても、財務報告に重要な影響を及ぼすような内部統制の不備は1つもない、という状態を指す。

しかし、結果として財務報告に重大な虚偽記載がないという事実によって、内部統制が有効であったと結論づけることはできない点に留意しなければならない。「可能性が高い」ということは、その「確率が高い」ということを意味し、結果として「重要な影響を及ぼす」状態、すなわち重大な虚偽記載が発生しているという状態になっていることが必要条件とはなっていないのである。

重要な欠陥とは、重要性と可能性によって決定されるリスクの概念である(下図参照)。内部統制に重要な欠陥があるため重大な虚偽記載が予防・発見できない可能性を内部統制リスクと定義すれば、内部統制が有効でないとは、内部統制リスクが高いということを意味する。

<図表  重要な欠陥の概念>


トップダウン型のリスク・アプローチは、また、全社的な内部統制、決算・財務報告に係る内部統制およびその他の業務プロセスに係る内部統制の順に評価範囲を決定することを意味する。その他の業務プロセスに係る内部統制の有効性評価を積み上げることは、効率的な内部統制評価とはいえない。全社に共通の内部統制や財務報告に近い内部統制を評価して、重要な欠陥の有無についての結論が得られるのであれば、販売や在庫等に係るその他の業務プロセスに係る内部統制の評価は、それでもなお不足する部分を補うレベルでよいはずである。

すなわち、子会社等を含む連結ベースにおける全社共通の内部統制を評価し、次に、決算・財務報告に係る内部統制に係る内部統制を評価する。それだけでは重要な欠陥の有無が結論づけられない分野についてのみ、業務プロセスに係る内部統制を評価するのである。

このため、トップダウン型のリスク・アプローチは、まず全社的な内部統制、決算・財務報告に係る内部統制を評価した後に、下記の算式のように結果として差額として求めらるその他の業務プロセスに係る内部統制リスクに見合う内部統制の評価を実施するアプローチであるとも言える。

<図表  トップダウンアプローチによる評価範囲の考え方>

重要な虚偽記載を予防・発見するために必要な内部統制のレベル(OA)
 =全社的な内部統制のレベル(EL)+決算・財務報告に係る内部統制のレベル(FR)+その他の業務プロセスに係る内部統制のレベル(PL)

 全社的な内部統制(EL)と決算・財務報告に係る内部統制(FR)の評価結果に基づき、必要となるその他の業務プロセスに係る内部統制のレベルは、次のとおりとなる。
PL=OA-(EL+FR)



5-2. 内部統制の不備の区分
米国における内部統制報告制度では、不備を重大な欠陥(material weakness)、重要な不備(significant deficiency)、不備(deficiency)の3つに分類することとしている。内部統制基準と内部統制実施基準の前文においては、このような3段階の区分は、「財務報告への影響等についての評価手続がより複雑なもの」になるとしている。このため、わが国の内部統制基準では、これを重要な欠陥と不備の2段階としたとしている。

大中小に分ける場合には、通常、中をどのように定義するかが問題となる。大と小の2つに分ける場合は、中になるのかどうかを検討する必要がない。このため、不備の評価がより単純となる、というのがこの前文の趣旨であると考えられる。

しかし、実際上は3段階の区分が便利なことが多いと考えられる。内部統制の不備は多数発見されるのが普通であり、そのうち重大な欠陥となる不備は数少ないはずである。そのため、重要な欠陥とはならない多くの不備のうち、重要なものとそれほど重要でないものを区別し管理することは、それらを改善する優先順位をつけるために有益と考えられる。

社内における報告においても、重要な欠陥は当然経営者に報告されるが、多くの不備のすべてを報告する必要はないと考えられる。不備のうち重要なものは経営者、取締役会および監査役に報告し、重要でない不備は担当部門責任者に報告するといった取り扱いが一般的と考えられる。

一方、外部監査人は、財務諸表監査を実施するに当たって、内部統制に依拠して勘定残高の監査を実施するのか、内部統制に依拠できないため勘定残高の監査範囲を拡大するのか、という判断を行うことが必要となる。この判断の基準として、重要な欠陥があれば内部統制は依拠できないとすることには疑問の余地がない。しかし軽微な不備があったからといって、必ずしも内部統制に依拠できないということはないと考えられる。したがって、外部監査人は財務諸表監査を実施するに当たっては、不備を重要なものとそれ以外に区別することが必要となる。

このように、重要な欠陥とはならない不備を2つに区分し、重要な欠陥を含めて3段階に区分して管理することは、会社側および外部監査人側共に実務上有益であると考えられる。

5-3. ダイレクト・レポーティングの不採用

5-3-1. インダイレクト・レポーティングの意味
前文においては、「監査人は、経営者が実施した内部統制の評価について監査を実施し、米国で併用されているダイレクト・レポーティング(直接報告業務)は採用しないこととした。この結果、監査人は、経営者の評価結果を監査するための監査手続の実施と監査証拠等の入手を行うこととなる。」としている。

これによって、「ダイレクト・レポーティング」という言葉が有名になった。まず、米国で「併用」されているというのは、どういう意味であろうか。当時の米国における内部統制監査基準であるPCAOB監査基準第2号では、外部監査人は2つの意見を述べることとなっていた。すなわち、経営者による内部統制報告書に関する意見と、外部監査人の内部統制の有効性についての意見である。後者がダイレクト・レポーティングである。わが国の制度では、このうち、前者のインダイレクト・レポーティングの部分だけを取り入れることとされたのである。

その結果、わが国の内部統制監査報告書では「内部統制報告書は適正に表示されている」かどうかについて記載することになり、内部統制が有効かどうかについて直接意見を述べることはない。

なお、米国では上記のPCAOB監査基準第2号が廃止され、監査基準第5号が適用されている。この監査基準では、併用していたインダイレクト・レポーティングの方を廃止し、ダイレクト・レポーティングのみとしている。

財務諸表監査は、財務諸表を経営者が作成し、それを外部監査人が監査するという制度である。すなわち、財務諸表という経営者が公表した情報について、外部監査人が監査する。すなわち、財務諸表監査は、内部統制監査と同じインダイレクト・レポーティングである。このため、財務諸表監査の監査報告書では、「財務諸表は適正に表示されている」と記載され、内部統制監査と同様の文言となっている。わが国では、財務諸表監査に合わせて、内部統制監査もインダイレクト・レポーティングとしたのである。

外部監査人としては重要な欠陥の存在を見逃すような監査を実施することはできない。内部統制監査がインダイレクト・レポーティングであるからといって、監査人の責任が軽減されることはない。この点は、同じインダイレクト・レポーティングである財務諸表監査においても、監査人の責任軽かったわけではないことからも判る。

5-3-2. わが国におけるインダイレクト・レポーティングの考え方
インダイレクト・レポーティングを実施するためには、外部監査人から経営者による評価のやり方について、外部監査人から指摘や指導を受けることがある。しかし、監査人から適正意見を受けるために、経営者が監査人の指摘に従った方法によって評価を実施することは、会社としての負担となる。米国では、この負担を軽減するためにはインダイレクト・レポーティングを廃止し、経営者と外部監査人がそれぞれ別々に自らが最良と考えるやり方で内部統制の評価を実施することがよいと考えられたのである。

米国におけるダイレクト・レポーティングは、エンロン事件後の資本市場が不安に陥れられた時に議会の力により導入された経緯があり、外部監査人に過大な責任を負わせるものとも考えられる。米国においても、財務諸表監査はわが国と同じインダイレクト・レポーティングであることから、米国の制度上、内部統制監査とのバランスを欠くとも言える。

わが国の内部統制実施基準においては、「内部統制監査において監査人が意見を表明するに当たって、監査人は自ら、十分かつ適切な監査証拠を入手し、それに基づいて意見表明することとされており、その限りにおいて、監査人は、企業等から、直接、監査証拠を入手していくこととなる」としている。このため、外部監査人は経営者の評価の内容を検討するだけでなく、自らサンプリングをして内部統制の有効性を確かめる監査手続を実施する。

金融庁が発表したQ&Aのうち、下記の問18がわが国におけるインダイレクト・レポーティングの考え方を明らかにしたものとして注目される。

<図表  金融庁Q&A18
(問18)内部統制監査において、監査人が監査するのは基本的に経営者の評価結果であり、評価の手続についての詳細な検証は求められていないとの理解でよいか。
(答)
1.実施基準では監査人に対して、①経営者が決定した評価範囲の妥当性及び②統制上の要点の識別の妥当性を検証した上で、③内部統制の整備状況及び運用状況の有効性に関する経営者の評価結果の妥当性を検討することを求めている。
2.これらのうち、統制上の要点の識別の妥当性の検証は、評価手続の検証に属するものと考えられるが、実施基準では、それ以上に、内部統制の整備状況及び運用状況の有効性に関する経営者評価の検討において、監査人が経営者の評価結果を利用する場合を除き、経営者が具体的にどのような評価方法を行ったか(例えば、運用テストの具体的内容等)についての検証は求められておらず、監査人が監査するのは、ご指摘のとおり、経営者の評価結果についてである。


上記の「答」のうち、注目すべきは「内部統制の整備状況及び運用状況の有効性に関する経営者評価の検討において、・・・・監査人が監査するのは、・・・・経営者の評価結果についてである。」の部分である。すなわち、監査人が監査意見を述べる対象は、経営者の評価結果であるため、経営者がいかなる評価方法を採用しようと、経営者の評価結果が妥当であれば、監査人は適正意見を述べることになるということである。

米国において、インダイレクト・レポーティングが廃止されたのは、前述のとおりインダイレクト・レポーティングにおいては、経営者の評価方法の詳細に対して監査人が口出しすることが多くあり、会社の負担が大きくなることを避けることが理由の一つであった。

これに対して、金融庁は、監査人は経営者による評価結果について意見を述べるのであるから、「経営者が具体的にどのような評価方法を行ったか(例えば、運用テストの具体的内容等)についての検証は求められておらず」とし、経営者評価の詳細については監査意見表明の対象とはならないことを強調している。インダイレクト・レポーティングにおける、前述のような弊害をできる限り排除するための工夫がここに見られる。

しかし、評価方法が適切でない場合には、適切な評価結果が得られない可能性がある。従って、適切な評価を実施するために、監査人と協議することは有用である。しかし、どのような評価を実施するかについての意思決定は、経営者が行わなければならない。

一方、上記の答えには、「監査人が経営者の評価結果を利用する場合を除き」と記述されている点にも注目する必要がある。これは監査人が経営者の評価結果を利用する場合には、その具体的な評価方法を検証することがあることを示している。ここでの「評価結果」とは、最終的な経営者による有効性判断の結果ではなく、評価手続の実施内容とその結果を指すものと考えられる。

監査人は経営者の評価を「利用」することにより、効率的な監査を実施することができる。このため、経営者は監査人にその評価を利用してもらうことにより、評価方法が適切であることを確認できるだけでなく、監査費用を最小限にすることができるのである。

5-4. 内部統制監査と財務諸表監査の一体的実施
外部監査人による内部統制監査は、財務諸表監査と別個に実施されるのではない点は非常に重要である。前述のとおり、財務報告に重要な虚偽記載がないことを保証するのが、外部監査の任務であり、これにより投資家保護の目的が達成される。内部統制が有効であることは、財務報告の適正性を支援するが、それだけでは投資家保護という目的は直接的には達成できない。このため、内部統制監査は財務諸表監査と一体として実施して初めて本来の目的を達成することができる。

財務諸表監査においては、内部統制が有効であれば財務諸表が適正に作成される可能性が高いが、そうでない場合はその可能性が低い。したがって、内部統制が有効でない場合には、財務諸表の勘定残高を念入りに監査することが必要となる。そのような判断を行うために内部統制の評価が実施されるのである。

反対に、財務諸表監査において、財務諸表における虚偽記載を発見した場合には、内部統制が有効に機能しなかった証拠として、内部統制監査に利用される。米国における内部統制の重要な欠陥事例の多くが、財務諸表監査の過程で財務報告の誤りを監査人が発見したことから、結果として内部統制が有効でないとされたものであった。財務報告が誤っていたという事実は、内部統制が機能しなかったという「動かぬ証拠」となるのである。

制度としては内部統制監査だけが独立して実施されることはないため、財務諸表監査と内部統制監査を一体として実施する一体監査(integrated audit)が実施されると考えるべきである。このため、従来の財務諸表監査は、内部統制監査と一体として実施する「一体監査」と、内部統制監査を実施しない「財務諸表監査」の2種類に分かれることになる。

金融商品取引法に基づき、上場会社に対しては一体監査が実施されるが、非上場の有価証券報告書提出会社に対しては財務諸表監査が実施される。会社法に基づく監査においては、従来どおり財務諸表監査が実施される。すなわち、会社法監査が適用されるほとんどの上場会社に対しては、金融商品取引法に基づく一体監査と会社法に基づく財務諸表監査が実施されることになる。

<図表 金融商品取引法に基づく一体監査と財務諸表監査の適用範囲>

一体監査
財務諸表監査
上場会社
×
非上場の有価証券報告書提出会社
×
有価証券報告書を提出していない会社
×
×
(注)○:実施される、 ×:実施されない

 なお、上場会社の子会社や持分法適用会社については、自社では有価証券報告書を提出していない場合でも、親会社である有価証券報告書提出会社の連結財務諸表監査の一環としての財務諸表監査が実施され、また、内部統制監査が実施されることがある。しかし、それらは親会社における連結ベースの監査の一部であり、子会社単体ないし持分法適用会社単体での財務諸表監査ないし一体監査ではない。したがって、これらの会社単体に対しては個別に監査報告書が提出されることはない。これらの会社においては、財務諸表監査の一部が実施されることもあれば、財務諸表監査は実施されず、内部統制監査の一部だけが実施されることもある。

ここで留意しなければならない点は、内部統制監査は期末時点の内部統制の有効性を対象にするが、財務諸表監査における内部統制の評価では、期間を通じた内部統制の有効性の判断が必要となる点である。すなわち、内部統制報告制度上は、期中において重要な欠陥があったとしても、期末までにそれが改善されていれば内部統制は有効とされる。しかし、期中における改善までの期間は、重要な欠陥があった状態が続いていたのであるから、財務諸表残高の一部は、重要な欠陥がある内部統制に基づいて作成されたことになる。したがって、その部分の勘定残高に対しては内部統制が依拠できないとして、念入りな監査が必要となるのである。

一方、上場会社は、内部統制報告制度だけのために内部統制の有効性評価を実施すればよいのであるから、期間を通じた内部統制の有効性を評価することは必要とされない。したがって、経営者の観点からは、期末における内部統制の有効性のみに焦点を当てた評価を実施すればよいことになる。

しかし、内部統制は本来、期間を通じて整備され運用されていることが必要であり、それによって初めて財務報告の信頼性を支援することができる。この観点から、制度としても期間を通じた内部統制の有効性評価を本来求めるべきであると考えられる。企業の負担を軽減する観点から制度設計上、期末における一時点での内部統制の有効性評価を求めたのであろう。

したがって、経営者評価においても、期間を通じた内部統制評価を実施することが望ましい。期末時点において全社一斉に評価することは実際上できない。期間を通じた内部統制評価を実施することにより効率的かつ効果的な評価を実施することができるのである。

5-5. 内部統制監査報告書と財務諸表監査報告書の一体的作成
財務諸表監査と内部統制監査が一体として実施され、それらの結果を総合して、1つの監査報告書として作成される。一つの監査報告書となるのであるから、署名捺印をする公認会計士も同一となることは当然である。

ただし、監査報告書においては財務諸表監査と内部統制監査それぞれの部分に分かれ、ぞれぞれの観点からの監査意見が述べられることになる。内部統制監査の意見は次のとおりである。

l  無限定適正意見
l  限定付き適正意見
l  不適正意見
l  意見不表明

内部統制報告制度は、経営者による内部統制報告書に対して外部監査人が監査意見を述べるという制度である。このため経営者が内部統制を有効でないとし、それが適正である場合、監査人は無限定適正意見を述べることとなる。その場合は重要な欠陥に関する追記情報が監査報告書に記載される。また、期末直前に他企業を買収した場合や災害が発生した等の場合は、やむを得ない事由として評価範囲の除外ができる。その場合はその範囲とその理由が、内部統制報告書と監査報告書に記載されることとなる。

内部統制に関する監査意見および経営者による内部統制報告書における意見の通常考えられる組み合わせは次のようになる。財務諸表監査では、投資家保護の観点からは、無限定適正意見か限定付き適正意見であるべきであるが、それに対する内部統制に関する監査意見は、下記のパターンが通常考えられる。外部監査人と経営者の内部統制の有効性に関する意見が異なる場合が、下記の4つ目の組み合わせである。

<図表  内部統制報告書と内部統制監査報告書の一般的な組み合わせ>
内部統制報告書
内部統制の監査意見
有効意見
無限定適正意見
非有効意見
無限定適正意見と重要な欠陥に関する追記情報
やむを得ない事情による評価範囲の限定付き有効意見
無限定適正意見とやむを得ない事情による範囲制限に関する追記情報
有効意見
不適正意見

5-6. 監査人と監査役・内部監査人との連携
 外部監査人は、監査役等(監査委員会を含む)と「連携」し、内部監査人による内部統制の評価結果を「利用」する。これは、内部統制の評価業務を実施する者と連携し、またその結果を利用することにより、効率的かつ効果的な外部監査が実施できることができる。

内部監査人は経営者に代わって評価を実施する者であり、前述の「6-3. ダイレクト・レポーティングの不採用」の項でその評価結果を外部監査人が利用する点について述べたとおりである。

ここで留意すべきは、監査役監査と外部監査人による内部統制監査の関係である。会社法上の大会社においては、監査役は業務監査と会計監査を実施するが、主として取締役の職務の執行について法令定款に従っているかという観点での業務監査を実施する。会計監査は主として会計監査人が実施し、監査役はその会計監査の相当性を検討する。この点から、監査役は外部監査人を評価する立場にある。

一方、内部統制報告制度においては、監査役監査はモニタリング機能として、内部統制の一部となる。したがって、監査役監査は、経営者による内部統制評価の対象となり、外部監査の対象ともなる。会社法が求める監査役監査と比較して、金融商品取引法が定める内部統制報告制度では、主客が逆転することとなってしまう。

このことがあってか、前文においては、監査役に気をつかった記載内容となっている。すなわち、「監査人は、監査役が行った業務監査の中身自体を検討するものではないが、財務報告に係る全社的な内部統制の評価の妥当性を検討するにあたり、監査役等の活動を含めた経営レベルの内部統制の整備および運用状況を統制環境等の一部として考慮することとなる」としている。基準案の前文として200512月に公表された時点では、この文末は「監査人は・・・評価する」となっていたが、20072月の確定版では「監査人は・・・考慮する」に変更されている。

この主客逆転現象は、会社法と金融商品取引法の立法趣旨の違いから来ていると考えられる。会社法は、会社自治の観点から、取締役の監視機能を担う機関として監査役が位置づけられている。企業不祥事の続発を反映して、監査役の権限強化を図るための商法(会社法)改正が何度も行われてきたのは周知のとおりである。一方、金融商品取引法は、投資家保護の見地から、内部統制監査を通じて会社外の外部監査人に経営者の監視機能を担わせている。このため、会社内の監視機能である監査役監査が、外部監査人の評価対象となるのである。

監査役としては、監査の対象であった取締役や、相当性評価の対象となる会計監査人から、評価をされる立場になるのは釈然としないかもしれないが、制度の趣旨を理解することが必要である。

会社法上、監査役の業務監査には内部統制に係る監査が含まれていると解される。このため監査役は自らの監査報告書を作成するため、会計監査人(監査法人等)から内部統制監査の結果報告を受けたいと考えるのが通常である。しかし、監査法人等による内部統制監査報告書は、これまでの実務では株主総会以後の日付となる。このため、内部統制監査実務指針においては、次のとおり監査役等への報告は「あくまで内部統制監査の経過報告」であるとしている。

<図表  監査役等への報告-内部統制監査実務指針>
  ・・内部統制監査報告書日付までの間に実施する手続により、経営者等に報告べき内容が変更又は追加される可能性があることに留意する必要がある。監査人は、経営者、取締役会及び監査役又は監査委員会への報告に当たっては、経営者の内部統制報告書のドラフトを入手し、内容を確認の上、書面又は口頭により報告を行う。会社法監査終了時での監査人の報告は、あくまで内部統制監査の経過報告であることに留意する。
(内部統制監査実務指針4.財務諸表監査と内部統制監査との関係(9)会社法監査と内部統制監査)

6.今後の課題

6-1. 内部統制が有効でないという意味と適時開示
内部統制報告制度が導入されると、前述の「6-5. 内部統制監査報告書と財務諸表監査報告書の一体的作成」の項で述べたとおり、財務諸表は適正であっても内部統制は有効でないという事態が発生する。米国におけるサーベンス・オクスリー法404条適用初年度(200412月決算)においては、実に14%、すなわち7社に1社がこのような事態となった。財務諸表を作成するためのプロセスである内部統制が有効に機能していない会社は、今期の財務諸表は適正であるとしても、潜在的に適正な財務諸表を作成できない可能性があることを意味する。これは株主や投資者等のステーク・ホルダーに対する重要なメッセージとなる。
財務諸表の監査結果が不適正ということは、サッカーで言うとレッドカードであり、それは上場廃止事由となり、通常その会社は市場から退場させられることになる。一方、内部統制が有効でないという評価は、そのまま市場でのプレーが続けられるイエローカードと言うことができる。要するに、その場合は退場させられることはないが、市場のプレーヤーや観客である国民にその旨が知らしめられる。

わが国においても、一部の上場会社は、内部統制が有効でないと報告することになると予想される。内部統制に重要な欠陥があり、それが有効でないことが判明した時点で、上場会社はその事実を開示すべきである。したがって、内部統制の有効性に関する会社情報は、事業年度末以降に提出される内部統制報告書だけではなく、今後は証券取引所が求める適時開示情報などの形で開示すべきであることが検討されるであろう。このような上場会社からの内部統制に関する情報発信を投資家が受け止め、投資行動に反映するという内部統制報告制度の効果が今後期待される。

6-2. 任意監査への対応
 金融商品取引法や会社法監査が要求されない場合においても、法律に基づかない任意の財務諸表監査が実施されることがある。任意監査としての財務諸表監査は実務に定着しているが、任意監査としての一体監査や、財務諸表監査を実施しない内部統制監査だけの任意監査の実施については、これまでの実務慣行がない。内部統制監査においては連結ベースが前提になっているため、会社単体の内部統制監査をどのように取り扱うかについての検討も必要となる。これらに関しては、日本公認会計士協会において検討し、実務指針等が公表されることが期待される。

6-3. 財務報告を超えて
不良製品の出荷、個人情報の漏洩、鉄道事故および談合事件など、近年企業不祥事が絶えない。日本の会社には、団塊の世代が定年退職を迎えるという特殊事情もある。ベテラン社員を大量に失い、モノつくりや安全管理のノウハウなどが次世代にうまく引き継れないというリスクである。人的な要素としては、わが国では3人に1人は非正社員、という人員構成も大きな懸念材料となる。何らかの抜本的な対応策が必要な状況にあると企業経営者が考えるのも当然と言える。
前述のとおり、会社法は「業務の適正を確保する体制」の確保を求めている。会社法は内部統制という用語を使ってはいないものの、これは取締役による有効な内部統制の整備・運用を規定したものである。すべての会社法上の大会社においては、内部統制の基本方針を決定し、その決議の概要を事業報告に記載することも必要となった。
このような背景の下で、内部統制報告制度が導入される。ただし、すでに述べたとおり、この新しい制度は財務報告の信頼性だけを対象としている。企業全体のリスク・マネジメントが課題となっている状況において、「いまさら」と言っては言い過ぎになるが、決算書の信頼性を確保する内部統制が対象となるのである。経営者にとっては、コンプライアンスや業務の有効性・効率性向上が優先課題なのであり、財務報告の信頼性に対してあまり関心がないのは、容易に想像しうる。
しかし、財務報告に係る内部統制について経営者が評価した結果を表明し、それについて外部監査を受けるという制度を採用した国は、米国だけではない。英国、フランスおよび韓国で同様の制度が導入されている。国際的な情勢から見ても、このような制度の導入は、避けがたい状況と考えなければならない。これは、すでに述べたとおり、公正な資本市場運営のために必要な制度なのである。
上場会社は、内部統制報告制度により、財務報告についてはある程度のレベルの内部統制を確保できるはずである。内部統制基準はCOSOに基づいた内部統制のフレームワークを提示している。この枠組みは、本来、財務報告だけのものではなく、コンプライアンスや業務の有効性・効率性向上もカバーする。したがって、COSOの枠組みに基づいて、コンプライアンスや業務の有効性・効率性向上に取り組むことができるのである。実際に、サーベンス・オクスリー法に基づく内部統制の構築を成し遂げた米国の先進的な上場会社は、次の課題としてこれらに取り組んでいる。
ただ、これから財務報告の内部統制を有効に整備・運用するだけでも、企業にはある程度の負荷がかかる点を認識する必要がある。米国では、約2年間の準備期間を置いていたにも関わらず、サーベンス・オクスリー法404条対応のために、非常に苦労した会社があることは、7社に1社の内部統制が有効でないと報告されている点でも明らかである。日本の基準は、企業負担が少なくなるように配慮されるとは言え、標準的な管理レベルの上場会社でも、真剣に取り組まないとクリアできないと考えたほうがよい。
したがって、今後、どのようなレベル感でコンプライアンスなどの他の分野に対応するのかどうかについては、会社の体力とそのような課題の緊急性との相談になる。一気にやると現場からの反発も予想される。
財務報告に係る内部統制の中には、コンプライアンスや業務の有効性・効率性向上を達成できるものも含まれる。それらは当然ながら内部統制報告制度への対応に包含されることなる。このため、緊急に対応すべき課題には取り組むとしても、まず当面は、財務報告の内部統制に対応し、その運営が軌道に乗ったところで、同じ枠組みで財務報告以外の分野に取り掛かるというやり方が最善と考えられる。


<参考文献>
Treadway Commission “Report of the Commission on Fraudulent Financial Reporting”, 1987
The Committee of Sponsoring Organization of the Treadway Commission(COSO),  “Internal Control - Integrated Framework”, 1992 and 1994
金融庁「ディスクロージャー制度の信頼性確保に向けた対応について」、20041116
金融庁「ディスクロージャー制度の信頼性確保に向けた対応について」(第2弾)、20041224
金融庁企業会計審議会内部統制部会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準案」、2005128
金融庁企業会計審議会内部統制部会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の設定について(意見書)」、2007215
金融庁「内部統制報告制度に関するQ&A」、2007101
金融庁「内部統制報告制度に関する11の誤解」、2008311
金融審議会公認会計士制度部会議事録および資料
日本公認会計士協会「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」、20071024
山浦久司「会計監査論(第3版)」中央経済社、1999
町田祥弘「会計プロフェッションと内部統制」、2004
日本公認会計士協会東京会編「粉飾決算」、第一法規、1974
日本経済新聞、読売新聞、産経新聞等の新聞記事


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